改正相続法について

(1) 改正相続法

相続法(民法相続編)がこの度、昭和55年(1980年)の大改正以降、約40年ぶりに大きく見直されることになりました(公布日:平成30年7月13日)。

今回の主な改正内容は、

  • 自筆証書遺言の見直し(自筆証書遺言の方式緩和、法務局での保管制度)
  • 配偶者居住権、配偶者短期居住権の創設(生存配偶者の居住権保護)
  • 遺産分割前の預貯金債権の行使(遺産分割前の預貯金の一部払戻し制度)
  • 被相続人の介護、看病等で貢献した親族による金銭要求の制度(特別の寄与)

等々、相続制度全般に関する抜本的な改正内容となっています。

(2)自筆証書遺言の見直し(自筆証書遺言の方式緩和、法務局での保管制度)

①自筆証書遺言の方式緩和

自筆証書遺言は、全文(作成するすべての文章)を自書(自分で手書きすること)しなければ、その効力が認められませんでした(改正前)。しかし、今回の改正により、相続財産目録(相続財産に何があるか示す一覧表のこと)をパソコンで作成したり、通帳(預貯金)のコピーや登記事項証明書(不動産)を添付することで、一部、自書によらない書面であっても、自筆証書遺言を作成できるようになります。

(改正のポイント)

  • 自筆証書遺言に添付する財産目録について、自筆要件が緩和される(なお、本文はいままでとおり自書が必要)
  • 財産目録の形態の制限がなくなったため、パソコンで作成したものや、通帳(預貯金)のコピー、登記事項証明書(不動産)でも可能に
  • なお、財産目録を作成する場合には、各ページに署名、押印が必要となる

②自筆証書遺言の法務局での保管制度

自筆証書遺言は自宅で保管されることが一般的に多く、紛失・毀損、場合によっては変造・隠匿されてしまうおそれもあり得ます(保管上の問題点)。そうした問題を防止し、また自筆証書遺言を利用し易くするための対策として、法務局で、自筆証書遺言を保管する制度が創設されることになります。

(改正のポイント)

  • 自筆証書遺言を法務局で保管する制度を創設
  • 保管できる法務局は、遺言書の住所地、本籍地、遺言書所有の不動産所在地を管轄するいずれか
  • また、法務局で保管された自筆証書遺言は、相続開始後の家庭裁判所による検認手続も不要に

(3)配偶者居住権、配偶者短期居住権の創設(生存配偶者の居住権保護)

①配偶者居住権

配偶者居住権とは、配偶者(例えば妻)が相続開始時に、被相続人(例えば亡夫)所有の居住建物に住んでいた場合に、終身(又は一定期間)、無償で使用できる新しい権利です。

その内容は、遺産分割の際等に、居住建物の権利を「配偶者居住権」と「負担付所有権」とに分けることができ、配偶者が「配偶者居住権」を取得し、他の相続人が「負担付所有権」を取得できるように考えられています。また、配偶者居住権は完全な所有権とは異なり、売却・賃貸できない権利にはなりますが、その分、居住建物の評価を抑えることができる側面もあります。

~居住建物の権利(二つの権利に分解可能:遺産分割の際等)~
=「配偶者居住権:配偶者が取得」+「負担付所有権:他の相続人が取得」

(想定される例)

  • 相続人:2 名(妻と子)
  • 相続財産:計 3000万(自宅1000万+預貯金 2000万)
  • 遺産分割協議の内容:法定相続分とおり各1/2

(改正前のケース)

※自宅(居住建物):1000万で評価
・妻(計1500万):自宅1000万+預貯金 500万・・・自宅は取得できるけど、預貯金が少し心配
・子(計1500万):預貯金1500万

(改正後のケース)

※自宅(居住建物):1000万=(配偶者居住権 500万)+(負担付所有権 500万)に分けて評価できる
・妻(計1500万):自宅(配偶者居住権500万)+預貯金1000万・・・自宅にも住み続けられながら、取得できる預貯金も増える
・子(計1500万):自宅(負担付所有権500万)+預貯金1000万

これまでは、遺産分割により配偶者が居住建物を取得すると、残りの預貯金等、他の財産が受け取れなくなってしまうケースも発生し、配偶者を保護するという意味で不完全な面がありました。しかし、この制度の創設により、配偶者が今まで通り自宅に居住しながらも、預貯金等の財産を多く取得できるようになり、改正前に比べて、生存配偶者の権利保護につながるよう、制度設計し直されています。

(改正のポイント)

  • 生存配偶者の居住権保護の見直し
  • 居住建物の権利を分解可能に=「配偶者居住権」+「負担付所有権」
  • 配偶者居住権は、売却・賃貸できないが、その分評価を下げられる
  • 配偶者居住権は、登記により第三者に対抗できる(=新たな所有者等の第三者に対して、配偶者居住権を主張できる)
  • 配偶者居住権は、賃貸借類似の法定債権と言える(賃貸借及び使用貸借の準用)

② 配偶者短期居住権

配偶者短期居住権とは、配偶者(例えば妻)が相続開始時に、被相続人(例えば亡夫)所有の建物に居住していた場合(実際上多いケース)、遺産分割等がなされるまでの一定期間、被相続人の意思にかかわりなく、居住建物に無償で住み続けることができる権利のことを言います。

また、その一定期間とは、相続開始時から遺産分割により居住建物の帰属が確定した日、又は相続開始時から6ヶ月経過した日のいずれかの遅い日までとされています。

なお、自宅が遺言により第三者に遺贈された場合や、配偶者が相続放棄した場合でも、居住建物の(新)所有者が権利消滅の申し入れをした日から 6 ヶ月経過する日までは、居住建物に住むことができます。

(改正のポイント)

  • ・遺産分割により居住建物の帰属が確定した日(=居住建物の所有者が決まった日)
    ・相続開始時から6ヶ月経過した日
    → いずれか遅い日までの一定期間、配偶者が自宅に居住する権利が認められる
  • 配偶者短期居住権は、譲渡することはできない

(4)遺産分割前の預貯金債権の行使(遺産分割前の預貯金の一部払戻し制度)

葬儀費用や生活費の支払、相続債務の弁済等、相続開始後にお金が必要とな った場合でも、原則として遺産分割前には、預貯金の払戻しができないという問題がありました(改正前)。このような相続開始後に生じる資金需要に対して、簡易迅速に対応できるよう、遺産分割前でも、預貯金債権の一定額の範囲内で、家庭裁判所の判断を経ずに、払戻しができるようになります。

(改正のポイント)

  • 遺産分割前であっても、一定額の範囲内で、家庭裁判所の判断を経ずに金融機関からの払戻しが可能に

(5)被相続人の介護、看病等で貢献した親族による金銭要求の制度(特別の寄与)

相続人ではない親族(例:嫁や婿、兄弟姉妹の配偶者等)が介護や看病をするケースが多々ありますが、改正前では、寄与分は相続人にのみ認められている制度のため、相続人ではない親族からの遺産の分配請求はできませんでした。

しかし、今回の改正により「特別の寄与」(無償で被相続人の介護や看病に貢献し、被相続人の財産の維持又は増加に寄与すること)があった場合には、相続人ではない親族からでも、相続人に対して金銭請求できるようになります。

(改正のポイント)

  • 相続人以外の親族でも、被相続人への貢献次第では「特別の寄与」として、遺産分割の対象者となることが可能に

※親族とは・・・6親等内の血族、3親等内の姻族(配偶者の血族、血族の配偶者)のことを言います。

(6)施行日、他の改正内容

①改正相続法の施行日

改正相続法の施行日は、公布の日(平成30年7月13日)から1年を越えない範囲内で、政令で定める日からとなっています。

ただ、自筆証書遺言の方式緩和は一足早く平成31年1月13日から、一方、配偶者居住権や遺言書保管制度は公布の日から2年を超えない範囲内で、政令により定める日からの予定です。

(施行日)

  • 平成30年7月13日~平成31年7月13日までを越えない範囲内で、政令により定める日~
  • 自筆証書遺言の方式緩和:平成31年1月13日~
  • 配偶者居住権、遺言書保管制度:平成30年7月13日~平成32年7月13日までを越えない範囲内で、政令により定める日~

②他の改正内容

また、他の改正内容として、

  • 遺言執行者の権限の明確化
  • 遺留分制度の見直し
  • 共同相続における権利承継の対抗要件
  • 自宅の生前贈与を特別受益の対象外となる方策(持ち戻し免除の意思表示の推定規定)

等々目白押しで、弊事務所でも、具体的な施行日や他の改正内容についても、より詳細な内容が確認でき次第、随時お知らせしていく予定です。